愚行録

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今作品「愚行録」は、「慟哭」「プリズム」などで知られる貫井徳郎さん渾身の”イヤミス”です。

人の秘密を暴いていくような背徳感、すべてが分かったときの理不尽さ。ページをめくるたびにぞくぞく人間の嫌な部分が見える傑作です。

2017年には妻夫木聡さん主演で映画化もされましたが、まずは原作から読むことをおすすめします。

まずはあらすじからどうぞ!

【記事後半からネタバレがはじまるのでご注意ください】

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愚行録のあらすじ

すべてが完璧に見えた理想的な家族を襲った一家惨殺事件。被害者である田向夫婦の知人や友人に話を訊いていくと、思いもよらない事実がいくつも浮かび上がってきた―。はたして理想の夫婦の本当の顔とは何だったのか、一体なぜ殺されなければならなかったのか。そして一番愚かだったのは誰なのか。

とあらすじはこんな感じです。

一家惨殺事件と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、事件そのものの描写は少ないので、グロテスク表現が苦手な方でも大丈夫です。

今作品の大部分は、殺されてしまった田向夫婦の知人・友人たちの証言によって成り立っています。

はじめは理想的な夫婦だったと語るエピソードが続いていきますが、昔の友人や知人を辿っていくうちに、様々な角度から見た彼らの素顔が見えてくる…という展開です。

ここからは愚行録のここが面白かった!と言うポイントを私なりに紹介したいと思います。

愚行録のおすすめポイント

様々な角度から見える人間の素顔が面白い!

今作品は地の分(作者の言葉)で説明される部分はほとんどありません。主に被害者である田向夫婦を知る人々の証言だけで物語は進んでいきます。

こういった証言者の話をメインに展開される小説は、愚行録以外にも宮部みゆきさんの「理由」や、恩田陸さんの「Q&A」がありますが、その中でも愚行録はこの手法を上手く使い切った作品だと思います。

人によって同じ人物を語っていても異なる部分と重なる部分があり、自分は常に他人から見られているという恐ろしさを身に染みて感じてしまいます。

また証言する側の人となりも読み取れるので、「何か信用できないな」というエピソードもちらほら。

人の言うことを鵜呑みするのは危険だと実感してしまいます(笑)

知られざる大学カーストの裏事情

私は地方の大学を出ているので、東京の名門大学事情は全然知らないのですが、愚行録では知られざる大学カーストも描かれていて面白いですね。

作者である貫井徳郎さんは早稲田卒らしいですが、早稲田側から見た慶應ってあんな感じなんでしょうか(笑)

ただこの作品で語られている大学カーストも、あくまで一人の証言が語った世界であることを忘れてはいけません。

殺された田向夫婦の妻である友季恵さんを知る人物として、二人同じ大学出身の証言者が出てきますが、二人とも微妙に大学カーストへの捉え方が異なるのも注目ポイントです。

誰が一番愚かなのか読み終わったあとに考え込んでしまいます

私は小説を読み終わったあと、タイトルの意味をよく考えるのですが、「愚行録」に込められた意味はすごく考え込んじゃいました。

結末まで読んでしまうと、どうしてもこのタイトルが浮いているように思えるんです。

ただ考えてみると、この作品は決して殺された田向夫妻だけを描いた小説ではないんですよね。

むしろ証言する側の人物を描くために、一家惨殺事件というテーマを用意した風にさえ見えます。

そう考えると一体だれが一番愚かだったのか、読み終わったあとも考えてしまいます。

きっと読む人によって誰が一番愚かだったのか、印象はかなり変わると思います。家族や友人と一緒に読んで、感想を語り合うのも盛りあがる一冊だと思います。

愚行録の感想

女同士のマウンティングは怖い!

愚行録は田向夫婦それぞれの過去が語られているはずなのに、妻・友季恵側の証言の方が強く印象に残っているんですよね。

たぶん、同じ大学である宮村さんの証言が心に残っているんだと思います。

何か現実にもよくいるタイプの嫌な女性なんですよね(笑)

「自分はそうは思わなかったけど」「自分は全然関心なかったけど」

と口癖のように語る彼女は、人一倍周囲からの評価を気にするタイプの女の人だったんだろうな~と思います。

ただこういった証言する人たちの性格が大袈裟に書かれていないというのも、この小説、というか貫井徳郎さんの凄いところだと思います。

その他にもよくいるタイプの証言者がどんどん出てくるので、イライラすること間違いなしです(笑)

衝撃のラスト…ではないかな

映画化されるにあたり、宣伝では衝撃のラストといったコピーがよく使われているのですが、別に衝撃のラストは待ち構えていません。

「慟哭」のような驚愕のトリックを期待している人は肩透かしにあうのでご注意ください(笑)

ただそういったどんでん返しを期待しなければ、十分に面白い結末が用意されているので、くれぐれも衝撃のラストには期待しないようにしてください。

また愚行録の面白い部分は結末ではなく、どんどん明るみになっていく過去のエピソードにあります。

じわりじわりと効いていくタイプの小説なので、一気に読み切ってしまうと思いますよ!

さて、この後はもう少し小説の内容に踏み込んだ感想を紹介していきたいと思います。

まだ愚行録を読んでないという方、そしてネタバレなしで読みたいという方は、商品紹介バナーから下は読まないようにしてくださいね!

愚行録のネタバレ有り感想

ここからはネタバレ要素ありで、愚行録を読んだ感想を紹介していきます。

私は殺された田向夫婦は何も悪くなかった派です

愚行録を読んで意見が分かれるのは、殺された田向夫婦に非はあったのかどうかだと思います。

確かに証言者たちの話をストレートに受け止めれば、田向夫婦はそこまで褒められた性格ではありません。

ただ改めて考えると、彼らの行動って明文化するからひどく見えるだけで、みんなが普通に行っていることだと思うんです。

たとえば田向浩樹の場合、愚行としてこれらのエピソードが語られました。

  • 付き合っていた女性と別れるために友人と芝居を打つ
  • 狙っていた女性を奪った同僚を上司の力で左遷させる
  • 同時期に二人の女性と付き合う
  • 就職希望先の役職についている女性を狙って付き合う

でもこういった話って、みんな少なからず経験したことがあるのではないでしょうか。

1のエピソードはそもそも浩樹が考えたのではなく、友人が勝手に行ったことです。2についても左遷された同僚も空気が読めないという、致命的な欠点があります。

また3についても、付き合う前にちゃんと浮気相手には了承をとっており、そこまでアンフェアな恋愛をしたわけではありません。

4つ目のエピソードは田向浩樹最大の愚行として出てきますが、彼女に今後の利益を求めることはそんなに愚行なのでしょうか。

妻である田向友季恵(旧姓・夏原)においても、彼女を悪く語る人物は、彼女に嫉妬していた宮村からしか出てきません。

そう考えると、やはり田向夫婦に非はなかったと思えるんですよね。みなさんはどう思いますか?

夫・浩樹の印象が薄すぎて意味がなかったのでは?

↑では夫・浩樹のエピソードを中心に語りましたが、本編では本当に影の薄い存在です(笑)

夫婦の裏の姿を語ることで、一家惨殺事件の犯人が誰なのか分かりにくくする狙いがあったと思いますが、途中から主役は完全に妻に奪われています。

というか途中から犯人捜しはどうでもよくなってくるんですよね。

読者が気になるのは、本当に田向友季恵、夏原さんは悪女なのかという点に絞られてしまうので、結末で犯人が分かっても「あ~そうなんだ」としかなりません。

それならいっそ夏原友季恵の過去にスポットを当てても良かったのでは?と思います。

もっと彼女を憎む人物が出てきて、本当に悪女なの?といった展開の方が面白かったかも。

白夜行の雪穂を超えるモンスターが見たかった気もします。

そういえば有吉佐和子さんの「悪女について」も色んな人の証言を集めた作品でしたね。

本人の心情描写は描かずに、第三者から見た外面の情報だけを集めると、人間は誰しも恐ろしく見えるのかもしれませんね。

犯人の動機がちょっと弱い気がする…

愚行録では証言ごとのあいまに、少女のような語り口の女性が誰かに語り掛けるシーンが何度か出てきます。

この女性が一家惨殺事件の犯人である田中光子だったのですが、ちょっと動機が弱すぎる気がしますよね。

もちろん彼女の生い立ちには同情しますし、夏原さんが大学時代に彼女へ行ったことの事実だけを見れば、憎まれても仕方がないのかもしれません。

ただ結局殺した動機が「幸せそうだったから」で片付けられてしまうと、ちょっと納得しづらいですね。

もっと過去のエピソードと絡めた動機であれば、(できれば夫も絡むような)もう少し納得できたかもしれません。

犯人捜しがメインテーマではないので、大胆なトリックなどは必要ないのですが、田中光子が出てくる必然性のようなものは感じませんでした。

時間が経てば凄さが分かる小説でした

愚行録は読んでから時間が経つほど、色々な感想が出てくる小説でした。

私の場合はこんな感じです。

読み終わった、ちょっと最後が残念だったな~。

あ、でもこの作品は証言する人たちの方を描きたかったのかな…。

確かに思いだせばみんなそれぞれ愚かなポイントがある!

凄い!面白かった!!

まだ2回目の読み直しはしていないのですが、きっと読み返せば新たな発見も色々出てくると思います。

イヤミスらしく、人の心に何かモヤモヤしたものを残す、間違いなしの傑作でした!

イヤミスが好きな方は、こちらの記事でおすすめのイヤミス小説をまとめているのでぜひ参考にしてください。

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