読み終わったあとに、どこか心に残る角田光代さんの作品たち。
最近では「八日目の蝉」や「紙の月」が映画化されるなど、今最も注目を集める女性作家の1人です。
今回はそんな角田光代さんが大好きなファンの方に、おすすめの作品をランキング形式で9作品選んでいただきました。
角田光代作品にハマりつつある方は、ぜひ参考にしてください。
9位 銀の鍵
一切の記憶をなくしたまま、見知らぬ町で、我にかえった「わたし」。ただ空は広く、濃いブルーで、薄い生地のリボンみたいに幾筋も雲がたなびいている―。アキ・カウリスマキ監督の最新作「過去のない男」にインスパイアされて生まれた、もうひとつの物語。
読んでいる間は正直よくわからなかったのだが、あとがきが良かったので9位にランクイン。
あとがきによれば、この作品は『過去のない男』(アキ・カウリスマキ監督)という映画の感想文であるらしいです。
この映画は観ていないので、観てからもう一度読み直そうと思っています。
観ていない時点での感想で恐縮ですが、『銀の鍵』には全体的に小さな優しさや善意が散りばめられていた作品だと思います。
100%ORANGEさんの絵も優しく、ほっこりさせてもらいました。人生に疲れたときに読んでみて欲しいと思います。
8位 かなたの子
生まれなかった子が、新たな命を身ごもった母に語りかける。あたしは、海のそばの「くけど」にいるよ―。日本の土俗的な物語に宿る残酷と悲しみが、現代に甦る。闇、前世、道理、因果。近づいてくる身の粟立つような恐怖と、包み込む慈愛の光。時空を超え女たちの命を描ききる傑作短編集。泉鏡花文学賞受賞。
『かなたの子』は泉鏡花文学賞を受賞した短編集。
正気と狂気、現実と妄想の境界が不明瞭になっていくような、後味の良いとは言えない話がほとんどですが、その中にいのちへの慈愛が吹き込まれており何とも表現できない感覚になりました。
恐怖がじわじわと迫ってくる感じ、知りたくない謎が明かされる感じが怖かったです。
おもしろいというよりは、切なさややるせなさが残るような短編集でした。
7位 おまえじゃなきゃだめなんだ
ジュエリーショップで、婚約指輪を見つめるカップルたち。親に結婚を反対されて現実を見始めた若い二人と、離婚を決めた大人の二人。それぞれの思いが形になる光景が胸に響く「消えない光」他23編。人を好きになって味わう無敵の喜び、迷い、信頼と哀しみ、約束の先にあるもの―すべての大人に贈る宝石のような恋愛短編集。
小説を読んでいるとなぜか記憶に残っている本が出てきますが、この『おまえじゃなきゃだめなんだ』は自分にとってまさしくそんな本でした。
特にはじめに収録されているジュエリーを巡る5作は、ゆっくりと心に染み渡るような優しさがあって、忘れたと思っていても頭の隅にストーリーが残っています。
5作目で1~4作目の話が緩くつながるのも心地良かったです。
1作1作が短いので、通勤、通学の合間などにも読みやすいと思うのでおすすめです。
6位 さがしもの
「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床のおばあちゃんに頼まれた一冊を求め奔走した少女の日を描く「さがしもの」。初めて売った古本と思わぬ再会を果たす「旅する本」。持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉「手紙」など九つの本の物語。無限に広がる書物の宇宙で偶然出会ったことばの魔法はあなたの人生も動かし始める。
こちらは『この本が、世界に存在することに』(メディアファクトリー、2005)を改題したもの。
本との出会いやつながり、あるいは本にまつわる他者との関わりを描いた短編集です。
再読してみたら記憶していたストーリーと全然違う話だった、昔は何にも感じなかった一文がやけに頭につっかかる、そんな経験が度々ありませんか?。
そうした、本好きの人ならば思わずそうだよなあと頷いてしまうようなエピソードが語られています。
淡々とした物語ながら、本に対する愛しさを感じさせる一冊です。
5位 平凡
もし、あの人と結婚していなければ。別れていなければ…。仕事を続けていれば。どんなふうに暮らしたって、絶対、選ばなかった方のことを想像してしまう。6人の「もし」を描いた傑作小説集。
6作から成る短編小説集。
人生における無数の「もし」について考えてしまう登場人物たち。
もし、あのときこうだったら、こうしていたら・・・・・・。
その「もし」のタイミングで選ばなかったすべての自分よりも、「今ここにいる自分自身」は幸せにならないといけない。
そんな登場人物の思いが、角田さんらしい丁寧な語り口で描かれており、自分が日々考えあぐねいている悩みに、ひとつの答えを提示してくれています。
仕事お疲れの方にもおすすめしたい一冊です。
4位 対岸の彼女
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。第132回直木賞受賞作。
『対岸の彼女』は、「現在」と「過去」が交互に語られる、やや複雑な構成になっています。
「現在」の主人公は30代の主婦、小夜子。「過去」の主人公は高校生の葵。
たまたま二人の人生が交差した「現在」を主軸に、葵の過去が挟まれる形で物語が進んでいきます。
小夜子の感じる息苦しさも、葵の感じる閉塞感も、とても切実で、わかるような気がしました。
「過去」と「現在」から見える「対岸」や、小夜子が生き方を選ぶ場面など、じんわりと胸が熱くなるような小説だったと思います。
3位 八日目の蝉
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。
テレビドラマや映画にもなった本作品。
大きく分けると、愛人の赤ん坊を誘拐した女・希和子の視点で描かれる1章と、その誘拐された子ども・恵理菜の大人の姿を描く2章から構成されます。
前半の逃亡劇のスリリングさや、逃げ込んだエンジェルホームの特異さが印象深く、自らの記憶や実母との関係に悩む恵理菜の葛藤が胸に迫り来る感じです。
そして、タイトルの意味がわかったとき、とても切なくなりました。
読んだ後に、「いつかもう一度読んでみよう」と思わせてくれる一冊です。
2位 紙の月
ただ好きで、ただ会いたいだけだった。わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。正義感の強い彼女がなぜ?そして―梨花が最後に見つけたものは?!第25回柴田錬三郎賞受賞作。
『紙の月』は銀行で働いている梨花が不正に手を染め、高額の横領事件を起こすという物語Dです。
梨花と、梨花とつながりのある木綿子(ゆうこ)、和貴、亜紀の視点から物語が語られていきます。
生真面目にすら見えたという梨花がどんどん罪を犯していく様子や、梨花の罪悪感のなさ、もっと言えば自らの行動を理解できていないような描写がとてもリアルで、そらおそろしくなりました。
全体的に、犯人があらかじめわかっているミステリーを読んでいるような気分で、先が気にななると思います。
それぞれの登場人物が思い悩んでいることには共感できる点もあるのではないでしょうか。
1位 ひそやかな花園
幼いころ、毎年家族ぐるみでサマーキャンプを共にしていた七人。全員ひとりっ子の七人にとって天国のような楽しい時間だったキャンプは、ある年から突然なくなる。大人になり、再会した彼らが知った出生にまつわる衝撃の真実。七人の父は誰なのか―?この世にあるすべての命に捧げる感動長編。
なにかすごいものを読んだなと、読み終わった後にそう思いました。
子どもの頃の数年間、夏のキャンプを共に過ごしていた7つの家族。
その7人の子どもたちが、家族の共通点や自らの真実を知り、大人になって再会を果たします。
「家族」とは何なのか、自分の存在とは・・・・・・。そんな表現にすると陳腐になるが、この小説はそうしたテーマに丁寧に向き合った真摯な作品です。
角田光代作品には「家族」を描いた作品が多くありますが、本作は物語の奥底から感じられるエネルギーが非常に強く、ただただ圧倒されて一気に読んでしまいました。
互いを理解できないということ、その落胆の先に強い何かがある。
そんなことが静かに訴えかけられてくる、何度も何度も考えさせられる小説だったと思います。
ぜひ、一度手に取ってみていただきたいです。